人間見聞録・・・下稲葉 康之先生から学ぶ Ⅱ

いろいろな段取りを経て、いよいよ栄光病院に入院する事となりました。入院するに当たり、私も『父の最期をしっかり見届け、見送りたい。』と強く想い、病室に寝泊りする事にしました。後悔したくない。これで父と会えるのは最後だ・・・と考えると、何とも辛かったです。

私の中で大きな出来事がおき、心が大きく揺さぶられる出来事があった時、父は必ず見守り、大きな支えになってくれていました。その大きな存在ともう会う事が出来ない・・と考えるといてもたってもいられなくなったのです。

入院の日、父・母と病院に入り、入院開始です。父の表情はとっても固く、緊張にみちている感じをうけました。そこに下稲葉先生がお見えになりました。

先生は、父・母と自然にコミュニケーションをとる意志を示してくれ、早速会話が始まります。いろいろお話をされた終盤位の時間帯だったでしょうか、先生が父に質問をしました。『良一さん、どんな歌がお好きですか?』『歌ですか?そうですね、母さんの歌が好きですね』

多分、この頃は、死期を悟りつつ、死ぬ事に対する恐怖で覆われていたのだと想います。

『そうですか。良い歌がお好きなのですね』先生は、一瞬で、父の状況を察知されたと想います。

『それでは、私が、良一さんの好きな母さんの歌を歌わさせて頂きます。』『母さんがよなべをして・・・』と歌い始められました。

その歌声は、父にメッセージを送っているように聞こえました。その歌を聴き父の顔が緩みます。その顔を見た母と私は、久しぶりに見る父の表情に、涙がこぼれおちてきました。

その後、先生は、正規の診察時間以外にも、時間があれば何度と無く病室にお見えになって頂きました。その都度、父や母と自然体でお話をされ、いつしか父や母の表情は、笑顔の溢れる表情へと変わり、ずーと前からここで生活していたのではないか?と思える程、栄光病院での生活に充実感を覚えるような感じでした。

先生は、全人的に父や母、私とコミュニケーションをとり、理解しようとして下さっていたのです。全人的理解とは、死を迎えようとしている人間にあるといわれる、身体的苦痛・精神的苦痛・霊的苦痛・社会的苦痛から構成される全人的苦痛を理解し、その苦痛を取り除く事をなされてこられました。

本人、私達家族にとっては、先生の様な方との出会いは、本当にありがたく、私は、神様と出会えた様に感じました。こんな気持ちになったのは、産まれて初めての事でした。

栄光病院での生活が始まって、1週間ほどしたある日、『鷹尾さん、幸せの意味がわかりますか?』と先生からの問いかけがありました。それまでの私は、直ぐ頭で考え、学問的に答えようとする人間でした。しかし、この時は、『・・・』『先生、わかりません』と答えたと思います。『そうですか、・・・・』先生は、何かを言われたと思うのですが、覚えていません。何故覚えてないんだろう・・それは、先生が言われた『幸せの意味』が、私に突き刺さり、そこでとまってしまったからです。※以後、その言葉を頭に置き、いつも心と会話する様に心がけています。

それから2週間程して、佐藤さんと言う男性の看護師さんから(父の担当で、本当に良くして頂いた魂の看護師さんです)『お父さんは、後2週間位したら、立てなくなるし、話ができなくなると思う。だから、家族と病院で、お父さんの為に何かやりませんか?例えば、結婚記念日のお祝いを、今年はされましたか?』

ホントに感謝・感謝です。その年は、結婚記念日のお祝いをしていませんでした。そこで、病院側の提案にのせて頂き、6月25日・・病院のホールをお借りし、下稲葉先生が牧師役、娘さん(現在、NPO法人 栄光ホスピスセンター、ホスピス緩和ケアネットワーク福岡等の事務局をされ、大活躍中です)がピアノ演奏、牧師さんがビデオ担当、看護師さんが全員整列しお祝いをしてくれる環境を整えていただきました。

とっても思い出に残る式になりました。今、私達家族にとっては、その時のビデオが大切な宝物です。

その後、先生や佐藤さんの言う通り、父は話が出来なくなり、立てなくなりました。あの時、提案をしてくださり感謝しています。

それから程なく、『鷹尾さん、幸せの意味がわかりましたか?』と下稲葉先生から問いかけがありました。『先生、まだ・・・』

病室の中が、幼い頃生活したあの家の様な日々でした。笑顔に満ちた父と母の間にいる私・・これぞ幸せ、そう思って過ごしていた私だったので、先生もそれを感じ、その様な質問をされたと思うのですが・・・

私にとって、下稲葉康之先生は、『師匠』です。ここで書ききれない、いろいろな事を抱えている中での出会いでしたので、私には、下稲葉先生が『生きる上での原点、見本、そして師匠』と思えてなりません。

先生は、現在、社会医療法人栄光会の理事長をなされ、経営の方を担当され、多くのご家族が、私達家族が経験させて頂いた様な経験ができる為の仕組み創りやその実践、教育等、多面的に取組まれています。頭が下がります。

私は、父に導かれるように先生と出会い、師匠と出会え、介護の世界に進みたいと思わせて頂き、今、先生と一緒に仕事をさせて頂けるフィールドを頂き、これ程幸せな事はない。と思っています。

『幸せ』・・私にとって、生きている今、その瞬間でのテーマです。

Filed under: スタッフ日記 — takaotsuyosi 10:03 AM  Comments (0)
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